大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松山地方裁判所 平成5年(ワ)620号 判決

主文

一  被告岩崎太郎は原告に対し、金一一万五八三六円及びこれに対する平成三年四月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告増田美紀は原告に対し、金七万四七三二円及びこれに対する平成三年七月六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その二を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。

五  この判決は第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

1  被告岩崎太郎は原告に対し、金一九万五九二〇円及びこれに対する平成三年四月四日(事故当日)から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告増田美紀は原告に対し、金九万四七九六円及びこれに対する平成三年七月六日(事故当日)から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件はタクシー会社である原告が、その所有車と衝突した相手方自動車の運転者である被告らに対し、事故によるタクシーの修理期間中の休業損を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、タクシー会社であるところ、その所有していたタクシーが被告ら運転の自動車と次のような交通事故を起こし、被告らが原告に対して、損害賠償責任を負担すること。

2  事故の発生

(一) 被告岩崎関係

日時 平成三年四月四日午前一時二五分

場所 松山市高砂町三丁目交差点

被害車運転者 中村真稔(以下「原告(中村)車」という。)

態様 右交差点で原告(中村)車が黄色点滅信号、被告岩崎車が赤色点滅信号で進入し、出会頭に衝突した。

(二) 被告増田関係

日時 平成三年七月六日午後一〇時三〇分

場所 松山市道後一丁目 NTT松山道後社宅前

被害車運転者 江戸美夫(以下「原告(江戸)車という。)

二  原告の主張

原告は、右事故により事故車両を修理に要した期間、次のような休業損を受けた。

1  原告中村車関係 一九万五九二〇円

原告中村車の事故前三か月の一日平均水揚げは五万二九二四円であつたが、これから一日当たりの同車の諸経費(燃料費、タイヤ消耗費、エンジンオイル代、車の消耗費)三九四四円を控除すると一日当たりの利益は四万八九八〇円となる。同車は、修理に四日を要したのでその期間中の休車損は前記金額になる。

2  原告江戸車関係 九万四七九六円

原告江戸車の事故前三か月の一日平均水揚げは五万一〇五〇円であつたが、これから一日当たりの同車の前同様の諸経費三六五二円を控除すると一日当たりの利益は四万七三九八円となる。同車は、修理に二日を要したのでその期間中の休車損は前記金額になる。

三  被告の主張

1  休車損とは、水揚げによるのではなく、休車によつて喪失した利潤を補償するものであるから、年間の総収益から総費用を控除した総利益を基準に算出すべきである。

2  仮に、水揚げを基準にするとしても、原告は無線配車により実車率を向上させており、タクシー利用の少なくとも五〇パーセントは無線配車によつている。一方で原告のタクシーの総台数二八台の一日の実車率は約四〇パーセントであるから、一日のうち約六〇パーセント、すなわち一七台が空車状態である。したがつて、一台が休車しても無線配車すべき空車の台数が一七台から一六台になるだけであり、水揚げには何ら影響がない。

3  仮に、影響があるとしても、それは次の算式によるべきである。一台の休車による水揚げ減少額(一日当たり)=総水揚げ×〇・五÷二八

4  また、人件費は水揚げから控除すべきである。ことに、修理期間中は、運転手を代替労働に従事させられるのであるから、それに支払つた給与は事故の相手方に請求する筋合いのものではなく、休車損から控除(損益相殺)すべきである。

5  原告は、予備車を備え、運転手の休暇を割り振りするなどしておれば休車損を免れることができた。したがつて、原告主張の休車損は、事故との間に相当因果関係を欠如する。

四  争点

休車損害額及びその算定に当たり、被告の主張1ないし4を採用できるか。

第三争点に対する判断

一  被告らが原告に対し、前記第二の一の2に記載した事故による損害賠償責任を負担することについては、当事者間に争いがない。

二  原告に生じた休車損害額

1  甲一号証によれば、平成三年一月から三月(原告中村車の事故前三か月)までの原告の実働車一台の一日平均の運送収入は四万八八四六円、同年四月から六月(原告江戸車の事故前三か月)までのそれは五万二九二四円であること、甲二号証によれば、平成三年の原告の実働車一台の一日平均の経費(ガス代、タイヤ代、オイル代、車の損耗)は中型車について三九四四円、小型車について三六五二円であることがそれぞれ認められる。

2  ところで、甲八号証の一ないし一一、四四号証の一、二、四五号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、一車両について二人乗務、いわゆる一車二人制をとつていること、乗務員の給料は基本給の他、乗務手当、家族手当、残業手当、深夜手当、歩合給、職務手当、役職手当、公出手当、遠距離手当、通勤手当等の諸手当があるが、乗務手当は一乗務について定額が支給されるもの、月間総水揚額の定額を超える毎に定額または定率で支給される職務給、能率給があること、以上の事実が認められるところ、職務手当は右職務給に、歩合給は右能率給にそれぞれ相当するものと考えられ、残業手当、深夜手当もその性質上、乗務毎に支給計算がされるものである。したがつて、乗務手当、残業手当、深夜手当、歩合給、職務手当はいずれも一回毎の乗務に直接結びついた経費であり、基本給や他の手当が一回毎の乗務に直接結びつかない間接的経費であるのと性質を異にするものといえるから、休車損の計算に当たつて、これらをガス代、タイヤ代、オイル代、車の損耗等の経費と異別に扱う理由はない。そして、甲八号証の一、二、四四号証の一、二、及び弁論の全趣旨によれば、原告中村車は、中村と岩本が、原告江戸車は江戸と河田がそれぞれ交代で乗務に当たつていたところ、中村と岩本の平成三年四月における乗務手当、残業手当、深夜手当、歩合給、職務手当の合計は、四七万八三一四円であり、一日平均は一万五九四三円であること、江戸と河田の平成三年七月における乗務手当、残業手当、深夜手当、歩合給、職務手当の合計は、三六万九一〇〇円であり、一日平均は一万一九〇六円であること(なお、いずれも右支給分は事故当月のものであるが、いずれも欠勤か無かつたことが認められるから、右月分の支給額を基準にしても特に不合理とはいえない。)、原告中村車は中型車であり、修理に四日間を、原告江戸車は小型車であり、修理に二日間を要したこと、以上の事実が認められる。

3  以上により休車損を計算すると、次のようになる。

原告中村車 (一日当たり)四万八八四六円-(三九四四円+一万五九四三円)=二万八九五九円

四日間分 一一万五八三六円

原告江戸車 (一日当たり)五万二九二四円-(三六五二円+一万一九〇六円)=三万七三六六円

二日分 七万四七三二円

三  被告らは、〈1〉休車損は、休車によつて喪失した利潤を補償するものであり、利潤は、年間の収益から年間の費用を控除したものであるから、その一日当たりの利潤を基礎にすべきであるとか、〈2〉原告は無線配車をしており、常時、所有車の六〇パーセントが空車状態であるから、一台が稼働できなくとも他の空車を配車すれば足りるので、水揚げに影響はなく、また、無線配車による売上は五〇パーセントを占めているので、仮に水揚げに影響しても、それは水揚げの半分に対する二八分の一であるとか主張する。そして、被告らの右主張は、いずれも原告の年間、或いは一定期間の総利潤、総水揚げを念頭に置いた平均値を基準にするものであるから、不合理な主張ではない。

しかし、当該故障車についてみれば、休車期間にその車両が得べかりし水揚げを喪失したことも事実である。そして、休車期間中の得べかりし水揚げから直接経費を控除して休車損を計算することは、より具体的であり、証明の難易という点からも原告に難きを強いるものではないから、損害の公平な分担という損害賠償の法理に照らし、不合理な計算方法として、これを排斥すべき理由はない。

被告は、休車期間中、原告は運転手を代替労働に従事させているから、それによる利益を損益相殺として考慮すべきである旨主張する。しかし、代替労働に従事させたとしても、それは固定給を支給することの対価と考えられる面があるから、それにより原告に利益が生じたものとはいえない。また、本件で問題とする休車期間は、いずれも短期間であるから、その間の代替労働によつて仮に、原告に利益が生じたとしても、僅少であると考えられるうえ、その算出は容易でないと考えられるから、これを考慮しないことが特に不合理ともいえない。

次に、原告が、予備車を備えたり、運転手の休暇の割り振りなどをして休車損が発生しないような対策を講じていなかつたとしても、そのことが事故と現実に発生した損害との間の相当因果関係に影響するものではない。

第四結論

以上により、原告の本訴請求は前記第三の二の3に記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 髙橋正)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例